はじめに



今日、文学研究の分野でも、パーソナルコンピュータを使用した新しい研究方法への関心が高まっている。しかし、日本児童文学研究において、コンピュータはあまり利用されることがない。利用されることがあっても、ほぼ、参考文献の検索や作品リストの作成などに限られている。作成文献書誌データの整理などに利用されることはあっても、児童文学作品の研究自体に利用されることはなかった。
そうした状況の中で、この共同研究の目的は、第一に児童文学研究の新しい研究方法の開拓である。すなわち、児童文学作品の本文を電子データ化し、作品研究を支援するシステムを開発することであった。
第二は上記の方法論を活用した『注文の多い料理店』の研究である。新しい方法論によって、宮沢賢治童話の特質を解明したいとの思いがあった
なお、この共同研究は1994年1月に発足。当初のメンバーは上田信道(大阪国際児童文学館)・大藤幹夫(大阪教育大学)・藤本芳則(当時大阪青山短期大学、のち大谷大学短期大学部)・向川幹雄(兵庫教育大学)であった。同年4月より「パーソナルコンピュータを使用した児童文学作品分析支援システムの開発」(通称「PC研」)という名称で、大阪国際児童文学館の共同研究の一つに位置づけられ、研究費が給付されることとなった。翌95年4月からは遠藤純(大阪国際児童文学館)を新たにメンバーに加えた。共同研究は1999年3月に終了するまで、毎月1回の研究会議を定例とし、5年以上にわたって継続的に研究を積み重ねてきたものである。
ここに、この間の研究成果をまとめ、広く公開することができるようになった。われわれの共同研究の成果が児童文学研究の進展に寄与することができるとすれば、誠に喜ばしい限りである。