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間に合わなかった原稿のこと〜「花嫁人形」をめぐる裏ばなし〜
日時: 2003/01/17 00:15
名前: Ueda

蕗谷虹児の「花嫁人形」は、1924(大13)年2月号の「令女界」に載った。2月号は、実際には1月の発売である。
前年の暮れのこと、虹児が「令女界」の編集部に行ったところ、予定していた原稿が間に合わないので大騒ぎになっていた。そこで、器用な虹児は間に合わない原稿に代えて「花嫁人形」の詩を書いたのだという。このことは、『謎とき 名作童謡の誕生』に書いておいた。
それでは、間に合わなかった原稿とは誰の原稿のことなのだろうか。
『唱歌・童謡物語』(1999 岩波書店)によると、それは西条八十の原稿なのだそうだ。この本は虹児の遺族にも取材にいったうえで書かれているので確かだろうと思い、拙著でもそのように書いておいた。
…ところがである。
つい先日、児童文学作家・研究者の赤座憲久さんからご丁寧な葉書をいただいた。赤座さんに教えていただいたことによると、2月号の「令女界」に間に合わなかったのは、与謝野晶子の短歌十首なのだそうだ。
当時、「令女界」の編集長は藤村耕一であった。晶子の短歌が三校にも間に合わない。そこで、穴埋め原稿を蕗谷虹児に依頼。一晩で仕上がった詩が「花嫁人形」なのだ、という。赤座さんは生前の藤村・蕗谷の両氏からこの話を聞かされたとおっしゃる。ひとりではなくふたりから聞かされたとおっしゃるので、この話はかなり確度が高いようだ。
してみると、間に合わなかった原稿については、いずれおりをみて拙著を書き直さなければなるまい。
ただ、掲載された原稿について確認をとるのは簡単だが、ボツになった原稿の確認をとるのは難しい。おそらく、無理だろう。すでに関係者も亡くなっているので、結局は両論併記という形でおさめるしかないのだろうと思う。
メンテ
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