インターネット版

児童文学資料研究
No.89


  発行日 2002年8月15日
  発行者 〒546-0032 大阪市東住吉区東田辺3-13-3 大藤幹夫
 


目  次


2001年下半期紀要論文紹介大藤幹夫
高島平三郎『教育に応用したる児童研究』藤本芳則
『世界未来記』(「冒険世界」増刊号)上田信道


 
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2001年下半期紀要論文紹介

大藤幹夫


「梅花児童文学」第9号 梅花女子大学大学院児童文学会 7.26
  • 殺された犬の軌跡―「花咲か爺」の国際的比較より― 稲田浩二
  • 現代児童文学の動向(4)―阪田寛夫の世界― 谷 悦子
  • 上方絵本『おさな遊び』考―「描かれた子ども」をめぐって― 白川恭子
  • 『人形の望』考―作品の社会性をめぐって― 小野由紀
  • 「ゆうれい船」または〈迫害から離脱へ向かう物語〉をどう越えるか―『うずしお丸の少年たち』と『目こぼし歌こぼし』を中心に― 相川美恵子
  • 明治期「少年世界」にみるロシア―昔話および翻訳作品の考察― 丸尾美保
  • 動物ファンタジーの先駆的作品としての Fabulous Histories―こまどりの擬人化を中心に― 多田昌美
  • フランスにおける Little Women 翻案に関する一考察―P.J.Stahl による Les Quatre Filles de Dr.Marsch をめぐって― 河本真由美
「論叢 児童文化」 第4号(2001年夏期) くさむら社 7.31
  • 鈴かけ次郎 関口安義
  • 発見!大仏次郎の初期作品群 長谷川 潮
  • 評伝 今西祐行(4) 関口安義
  • 若松賎子研究(4) 尾崎るみ
  • 子どもの英雄の近代(4) 加藤 理
  • 中国の子どもがどのように語られたか? 中村悦子
  • 日本少国民文化協会の研究・覚書(4) 浅岡靖央
  • 児童文学と障害問題(4) 長谷川 潮
  • 児童文学=〈資料〉と〈研究〉をめぐりて 上 笙一郎
「雲の信号」 第2号(特集・雪渡り) 千葉賢治の会 9.19
  • 狐と餅、狐と淨瑠璃―「雪渡り」のフォルクローロー 佐藤栄二
  • 「雪渡り」に寄せて 畑山 博
  • 雑誌『愛国婦人』について 鈴木嘉子
  • 四郎とかん子の見た幻燈 私市由枝
  • 「雪渡り」小考 鹿の子と三人の兄たち 村上英一
  • 賢治作品に登場する狐について 秦 美代
  • キツネはどうして悪者なのか? 小張ヒサ子
  • すんずら―わらべ歌の世界― 中谷俊雄
  • 「雪渡り」―気になる一冊 黒塚洋子
  • 「雪渡り」論―『赤い鳥』・童謡運動を背景として― 大島大志
  • 「雪渡り」の音楽帳 久保田恵子
  • 「雪渡り」の色彩について 宮沢田俊司
  • 十二才以上のための「雪渡り」コーザ 小田島 絹
  • お隣りの狐たち 大角 修
  • 「雪渡り」賢治の微笑み 大久保貞江
  • 『雪渡り』を見ること・聞くこと 赤田秀子
  • 「雪渡り」の解釈 先行研究について 村上英一
「文学と教育の会会報」 第41号 9.25
  • 花岡大学研究―「阿修羅の琴」として児童文学の生きる― 岡屋昭雄
  • 『少年画報』の附録『冒険活劇文庫』 根本正義
「論叢 児童文化」 第5号(2001年秋季) くさむら社 10.20
  • 「児童文化」研究のアイデンティティ 加藤 理
  • 評伝 今西祐行(5) 関口安義
  • 若松賎子研究(5) 尾崎 るみ
  • 中国の子どもがどのように語られたか?(2) 中村悦子
  • 剽窃事件いくつか 上 笙一郎
  • 日本少国民文化協会の研究・覚書(5) 浅岡靖央
  • 児童文化跚々録 上 笙一郎
  • 児童文学と障害問題(5) 長谷川 潮
  • 鈴かけ次郎 補遺 関口安義
  • 「発見! 大仏次郎の初期作品群」訂正 長谷川 潮
「論攷宮沢賢治」 第4号 中四国宮沢賢治研究会 10.25
  • クラムボン再考 押野武志
  • 「銀河鉄道の夜」と〈新世界交響楽〉―『ハイアワサの歌』と黒人霊歌を中心に― 山根知子
  • 増殖する謎としての想―「二十六夜」と「銀河鉄道の夜」をめぐって― 伊藤真一郎
  • 詩「雲とはんのき」におけるダルケについて 秋枝美保
  • 《文語詩稿》の成立―その構想前史― 島田隆輔
  • 《春と修羅 第二集》一九二九年早春詩群の意味―一次清書稿段階に注目して― 木村東吉
  • 〈資料紹介〉山陰の詩人・岡崎泰国の宮沢賢治論について―「森」第一輯(昭和9年12月)掲載文など― 平澤信一
「児童文学研究」 第34号 日本児童文学学会 10.25
  • 谷崎潤一郎の初期作品における「不良」の表象に関する考察 目黒 強
  • 新美南吉の晩年童話論―「幸福な心」の庶民像(「牛をつないだ椿の木」を核に)― 北 吉郎
  • 『王の家』(平方久直・作)の「満州」像―旧植民地を描いた児童文学の可能性と限界 相川美恵子
  • 阿部知二の児童文学 和田典子
  • 野上彌生子訳「ハイヂ」の一考察 小野由紀
  • 追悼 わが師・弥吉菅一先生 大藤幹夫
    [追悼・弥吉菅一]
  • 弥吉先生の残されたもの 和田 典子
  • 追悼 弥吉菅一先生 石澤小枝子
  • 英語圏児童文学研究文献解題―1998年― 三宅興子
  • 日本児童文学研究文献目録―2000年― 石井直人・上田信道・内藤貴子・藤本芳則 編
「ヘカッチ」 第6号 北海道子どもの文化研究同人「ヘカッチ」の会 10.27
  • 山本和夫全詩集を読む 笠原 肇
  • 北海道における宮沢賢治研究―小田邦雄『宮澤賢治覚え書き』の考察― 横田由紀子
  • 雑誌『アイヌの傳説』その後 柴村紀代
  • 詩人・百田宗治の雑誌等の編集・刊行の仕事と『にれの町』(百田宗治・詩/小野州一・絵/金の星社/1985年6月初版)誕生の経緯 佐藤将寛
  • 戦後北海道の児童出版物―1945年〜1950年 谷 暎子
  • 北海道の児童文化活動(戦後・団体)札幌子供の友会 鈴木喜三夫
「学芸国語教育研究」 第19号 東京学芸大学国語教育研究室 11.1
  • 〈書誌〉『乳樹』総目次 本間千裕
  • 〈書誌〉光文社の痛快文庫・少年文庫 根本正義
  • 絵本『ひとまねこざる』シリーズにおける魅力について(1)〜テキスト構成の面〜 並河 誠
  • 台湾に紹介された広介童話「黒いきこりと白いきこり」における解釈の問題について 陳 珊珊
「ワルトラワラ」 第15号 ワルトラワラの会 11.20
  • 宮沢賢治のビッグ・バン・存在のかなたへ[前半] 第一部〈光〉―開かれた世界へ 松田司郎
  • イーハトーヴ異界への旅(15) 道元 ウェールズ 井崎敏哉
  • 文語詩を読む その4 病床での想いと技法を考える 〔かれ草の雪とけたれば〕を中心に 赤田秀子
  • 異稿「遠足統率」のこぼれ話 はかなく消えた蜃気楼 岡澤敏男
  • 宮沢賢治のプラネタリウム(4) 賢治と嘉内のハレー彗星 加倉井厚夫
  • イーハトーヴ料理館(13)その6―第10・11巻・童話[3・4] [新]校本宮沢賢治全集校異篇をたべる 中野由貴
「国語教育学研究誌」 第22号 大阪教育大学国語教育研究室 12.14
  • 児童文学について―母は子にどのように経験させたらよいか―(再録) 弥吉菅一
  • 童話作家・小川未明の童話観―童話作家宣言から『未明童話集』全五巻の完成まで― 畠山兆子
  • マンガの描き方講座 書目一覧 竹内オサム
「文学と教育」 第42集 文学と教育の会 12.15
  • 絵本『ひとまねこざる』シリーズの魅力―色彩・イラスト構成の面から― 並河 誠
  • コミックメディア論 岩浅健介
  • 〈書誌〉東光出版社の少年小説・少女小説―「少年少女読物」シリーズ等の内容について― 根本正義

    ※並河氏の論稿は「はじめに」から「二、仮説の設定」の冒頭五行目までは、「学芸国語教育研究」第19号発表論稿と同文である。同一人の論稿だが、再考あってほしい。
[一般]
  1. 「児童文学、文学から「家族のいま」を考える」 鈴木佐喜子 「教育」 6-13頁 7.1
  2. 「続橋達雄先生追悼」 萩原昌好・大久保康彦・田中憲二 「野州国文学」(国学院大学栃木短大)第68号 51-65頁 10.31
  3. 「続橋達雄先生 研究業績(抄)」 大山尚・高橋由佳・竹内直人 編 「野州国文学」(国学院大学栃木短大)第68号 68-86頁 10.31
  4. 「日本における中国児童文学及び日本児童文学における中国―解題と細目―」 季 頴 「聖和大学論集(教育学系)」第29号A 227-239頁 12.20
  5. 「明治の出版人 長谷川武次郎」 石澤小枝子 「梅花女子大学文学部紀要」第35号 1-42頁 12.×
[日本児童文学]
  1. 「「雲」(あまんきみこ)を幻視する―〈雲〉の向こう側に見えるもの―」 松本議生 「日本文学」第50巻第12号 62-66頁 12.10
  2. 「唱歌と現代文学(6) 19 尾崎一雄・竹山道雄ほか」 若井勲夫 「京都文教短期大学研究紀要」第40集 170-174頁 12.20
〔宮沢賢治〕
  1. 「宮沢賢治「めくらぶだうと虹」―めくらぶどうの愚かさ―」 濱田有紀子 「新樹」(梅光学院大・院)第15輯 34-45頁 7.1
  2. 「宮澤賢治の法華経信仰と国柱会―宮沢清六氏追悼によせて―」 鈴木健司 「注文の多い土佐料理店」(高知大学宮沢賢治研究会)第4号 12-19頁 7.25
  3. 「宮沢賢治におけるインプロヴィゼーション、あるいは即興的身体」 高橋世織 「文学」 第2巻第4号 162-170頁 7.27
  4. 「〈おかしなはがき〉の〈おかしさ〉―「どんぐりと山猫」の冒頭部について―」 高橋由佳 「解釈」第47巻、通巻556・557集 30-37頁 8.1
  5. 「宮沢賢治の環境世界」佐島群巳「帝京短期大学紀要」 第12号 33-46頁 9.28
  6. 「「[税務署長の冒険]」考」 中野隆之 「黒葡萄」(中野隆之)第18号 1-21頁 11.1
[世界児童文学]
  1. 「ハリー・ポッターにみる呪文について」 足立昭七郎 「熊本学園大学 文学・言語学論集」第8巻第2号(通巻第16号) 79-103頁 12.15
[昔話・民話〕
  1. 「「『一寸法師』は針を主軸にした物語」説に対する疑問」 部矢祥子 「ぐんしょ」(続群書類従完成会)再刊第53号 17-22頁 7.25
  2. 「グリム兄弟と『子供と家庭のメルヒェン』―特殊な導入の背景と歪み―」 中山淳子 「龍谷紀要」(龍谷大)第23巻第1号 119-137頁 8.21
[漫画・絵本]
  1. 「村山知義・デザインの生い立ち」 アン・ヘリング 「文学」第2巻第4号 132-135頁 7.27
  2. 「コメニウスの『世界図会』1662年版に関する一考察」 井ノ口淳三 「追手門学院大学人間学部紀要」第12号 85-96頁 9.1
  3. 「さわる絵本―大阪での試み―」 小西萬知子 「図書館界」(日本図書館研究会)第53巻第4号(通巻三〇一号) 442-454頁 11.1
  4. 「心霊を教育する―つのだじろう「うしろの百太郎」の闘争―」 一柳廣孝 「日本文学」(日本文学協会)第50巻第11号 30-38頁 11.10
  5. 「「少女マンガ」の再現表象―大島弓子の〈ヴィジョン〉と〈精神分析〉の果て―」 生方智子 「日本文学」(日本文学協会)第50巻第11号 39-51頁 11.10
  6. 「戦後大衆絵本の動向」中西美季「南海福祉専門学校紀要」第19号 29-38頁 11.30
  7. 「マリー・ホール・エッツ論」 中西美季 「聖和大学論集(教育学系)」第29号A 191-202頁 12.20


 
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『教育に応用したる児童研究』

  高島平三郎著
  明治44年10月23日
  洛陽堂

 本書は、角書きにあるように、「児童研究」を教育的視点から試みたものであるが、部分的に童話について触れた箇所(主として三四三〜三七六頁)がある。その部分を紹介したい。ただし、「童話」の語は、現在とは異なり、主として昔話を意味するが、場合により子ども向きの読み物という意味でも使用されている。
 概略をうかがうために、ほぼ頁ごとに付されている小見出しを列記してみる。

子供の童話を好む所以/童話のおこり/類化の働/神話の勢力/童話と老人/童話の種類/(一)民俗童話/(二)仮作童話/仮作童話の価値/(三)寓話/イソップ物語/(四)伝説/童話と教育/児童と童話/童話には時と場所との制限なし/童話中の事実/童話と宗教/童話と道徳/社会の単純化/童話は家庭と学校とを連結す/子供が一つ話をくりかへして聞くを喜ぶ理由/幼稚園小学校にて童話を話す注意/童話を教材とするに反対する説/(一)空想の害/(二)不合理の害/不合理として避くべきもの/(三)子供を虚偽に導く害/(四)その他諸種の非難/日本の童話/日本童話の特色/日本童話と教育
 ここで対象となっている子どもは、幼稚園児から小学校低学年である。これより年長の子どもと童話との関連はほとんどとりあげられていない。
 まず子どもが童話を好む理由を、「子どもの心は、絶えず働いて」いるところ(旺盛な好奇心)に求め、話の展開に従って、次々と登場するものに心を移してゆくことが、子どもの心のありようにかなっていると述べる。
 神話のうち子どもに支持されたものが昔話になると続けて、その理由を「幼児と未開人とは、同様な心の働きを有して居るゆゑ、未開人を満足させた想像が、児童を満足させるといふことは当然である」と、子どもと「未開の民族」との心性の類似性から説明する。このような説明はかつて広くおこなわれたが、その比較的早い時期の例だろう。
 童話を、(1)民族童話、(2)仮作童話、(3)寓話、(4)伝説の四種に分類し説明を加えている箇所もある。(1)民族童話は、「狭い意味に於ていふ所の童話」のこととの記述から、「童話」という語がまず昔話を意味していたことがわかる。(2)仮作童話は、創作童話のこと。近年多く出されているが、西洋の翻案が大部分を占めていると指摘。仮作童話の価値について、文芸的観点からは、物語の技巧により評価されるとしながらも、童話そのものの価値としては、「民族童話に接近する程度に比例する」と述べて、昔話に近いものを評価しようとする。創作する作家の個性的意味が問われていない点に注目したい。(3)寓話は、「イソップ物語」について説明し、(4)伝説では、日清日露の軍人も伝説化していることにも触れる。
 二歳から七歳の子どもは、空想と現実とを区別する「智力」がなく、物語の「衝突や背理」に注意を払わないので、非合理なことも問題にならない。そこで、「自発的空想の盛なる間」が、童話の享受にもっともふさわしいと説く。童話(昔話)は、地名、人名などに固有名詞がなく分かりやすく、これもこの時期の子どもにふさわしい。伝説は、童話よりも複雑なので、より年長(10歳前後)向きと述べるが、現在からみれば一面的との批判もあろう。
 道徳教育に童話が、どのような役割を果たすことができるかなど、全体に教育的視点を重視した記述が目立つが、なかでも童話を教材とすることに否定的な意見を紹介し、コメントを付している箇所が面白い。たとえば、童話は、子どもの空想を刺戟しすぎて、現実を軽んじることになる、という意見は肯定するが、童話には不合理が多く、これを親や教師が教えるのは虚偽を教えているのと同じという批判には、「文芸上の空想の楽」と道徳上の虚偽の罪悪とを混同するものと反論する。ただし、童話の中の残忍酷薄な行為などの「道徳上より見て不合理なる事」は避けなければならないというところには、教育的配慮がうかがえる。
 高島によれば、反対論の多くは、現実と文学の世界とを混同する所に理由があるので、二つを分けて考えるべきだと主張する。現在でも、たとえば暴力的なマンガが暴力をふるう子どもをつくりだすというような主張を耳にする。高島がとりあげた問題は今でも解決済というわけではない。
 最後に日本の童話について言及し、その特色を、田園生活を描く、「農夫樵夫」を描く、老人が多い、「義侠忠義の行」を現わしたものが多い、「空想の性質が穏和」である、と五つにまとめている。最後の「空想の性質が穏和」がわかりにくいが、奇想天外なところが無いということだろうか。これらの特徴は、幼児の教材には最適だという。子どもの大多数は田舎生活をしているし、そこには農夫らがる。子どもたちに童話を語るのは、老人であるし、「義侠忠義」は国民性の修養を助けるのに役立つ。想像の穏健なところは教材として最も望ましいという。

(藤本芳則)




 
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「冒険世界」臨時増刊―《世界未来記》号―

上田信道


 「冒険世界」誌の臨時増刊、《世界未来記》号(第三巻第五号)は、一九一〇(明43)年四月二〇日付で刊行された。
 《世界未来記》号の刊行については、「冒険世界」の第三巻第四号(一九一〇年四月一日)に次の予告記事がある。
▲世界の未来は如何になるか?此未来記を読めば驚くべき事がある。痛快を叫ぶべき事がある。実に奇想天外より落つる奇書だ。
▲日米戦争、英独戦争は近々起るか。日露は再び開戦するか。不老不死の術は発明されるか。人工的に生物を製造する大学者等、怪絶又壮絶である。
▲空中戦争は将来の大事件、海底戦争も亦た将来の大事件、読者諸君は此未来記を読んで。(ママ)大いに将来の覚悟をせねばならぬ。
▲ハレー彗星が来るのでビツクリするやうでは駄目だ。地球は何時亡滅するか、百年千年後の人間はどうなるか。今からチヤンと知つて置かねばなるまい。
 青少年むけの大衆雑誌に特有の誇張された扇情的な内容紹介がなされているが、ほぼ内容の察しがつくだろう。
 ここで注目しておきたいのはハレー彗星云々の記述である。おそらく、ハレー彗星の接近という事件が未来記特集を組むきっかけになったと考えられるからである。
 また、庶民の間では、彗星と地球の大接近または衝突により、この年の四月二〇日を期して人類が滅亡するという噂が広まっていた。わざわざそうした噂の日付で増刊号を発行するところに、春浪流のブラックユーモアがあったのかもしれない。
 次に、《世界未来記》号の目次を紹介する。ただし、広告類は除外し、[ ]内はわたしが注記したものである。
 また、タイトルの下に「※」を記した記事は、全体として「滑稽奇抜 未来諷刺画」としてひとまとめにされたもの。小杉未醒が多色刷の一コマ漫画を描き、押川春浪が文章を付けている。

全世界大動乱! 鉄車王国出現!小杉未醒・筆 [石版・多色刷の大判口絵]
空中自由飛行[口絵]
世界黄金時代[口絵]
地球滅亡の後[口絵]
怪異博士の造つた怪人[口絵]
破天荒怪小説 鉄車王国(長篇読切)押川春浪1-40
世界大動乱の根源となる英独戦争浅田江村41-42・44-46
未来の蛮カラ女学生とハイカラ男学生※43
海戦小説 英露の潜航艇 海底戦争未来記海底魔王46-53
近き未来に出現すべき破天荒の大飛行機冒険記者53-57
奇中奇談 神力博士の生物製造閃電子57-64
三百年後の人間は何を喰ふか魔剣道人64・66-67
未来の専売局※65
未来小説 日米戦争夢物語虎髯大尉67-75
大発明家の予言せる世界の未来冒険記者76-77・79
未来の大臣と乞食※78
明治百年東京繁昌記坪谷水哉79-85
不老不死は不可能ぢや[無署名]85
驚嘆すべき未来の世界文明冒険記者86-89
滑稽未来小説 官営しるこ専売局黒面魔人89-95
恐怖すべき未来の人種戦争冒険記者95-96・98-99
未来の姥捨山※97
愉快と便利を極めたる黄金時代の都会生活白衣道人99-106・108-109
未来の贅沢生活※107
未来の人間はドンナ形態になるか冒険記者109-111
未来の催眠術は如何に不思議の働きを為すか冒険記者111-117
太陽の寿命と地球の滅亡冒険記者117-119
未来の人間製造※120
電気力万能時代冒険記者121-125
懸賞問題 痛快男子十傑投票を募る![無署名]126
痛快男子十傑投票第一回点数披露![無署名]127
光彩燦爛たる本誌五月号を見よ[次号予告]128
[奥付]128
現代痛快男子十傑投票[投票用紙]後付1

 目次を見ればわかるように、押川春浪(作家、主筆)、小杉未醒(画家)、坪谷水哉(作家、編集者)、浅田江村(雑誌「太陽」の記者)を除き、ほとんどの記事の書き手はペンネームまたは匿名であるため、実態は不明である。ただ、閃電子は三津木春影、虎髯大尉は阿武天風のペンネームであることがわかっている。
(未完)


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