真白き富士の根、緑の江の島



「稲村ジェーン」の舞台で

 いまの湘南海岸はサーフィンのメッカになっていて、桑田佳祐・監督の映画「稲村ジェーン」(1990)やテーマ曲「真夏の果実」のことなどが連想されます。映画は伝説の大波を待ちうける若者たちの青春を描いたものでしたが、映画の舞台になった1960(昭35)年からちょうど五〇年前、もうひとつの伝説の大波によって十二人の若い命が奪われたことをぜひ知っておきたいものです。
 このあたり一帯は鎌倉海浜公園になっていますから、散歩道を歩いてみましょう。公園に入るとすぐ、海をへだてて江の島が見え、晴れた日にははるか富士山をのぞむ見はらしのよい広場があります。
 海難事故の捜索中、五年生の徳田勝治と、逗子小学校高等科二年生の徳田武三の遺体が発見されます。兄の勝治は武三を抱きかかえ、弟の武三は勝治に抱きついたままの状態でした。おそらく兄は溺れかけた弟を助けようとしたものの、ついに力つきたものと思われます。
 1964(昭39)年のこと、この場所に二人の少年が抱きあっているブロンズ像「真白き富士の嶺」(菅沼五郎・制作)が建てられました。少年たちの足もとにはむなしく折れたボートの櫂が横たわり、台座には「七里ヶ浜の哀歌」の歌詞と、事件の概要を彫りこんだ金属板がはめこまれています。しかし、どうしたわけかここに錫子の名前がないのは残念です。


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