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『さんねん峠』

李錦玉/作 フォア文庫(岩崎書店)

 著者は大阪生まれの在日朝鮮人二世。挿絵の朴民宜との組合わせは、絵本版『さんねん峠』(岩崎書店)から続くコンビである。副題に〈朝鮮のむかしばなし〉とある昔話集で、これまで絵本として刊行されたり、雑誌に発表されたりしたものが新たにまとめられた。
 表題作の「さんねん峠」は教科書に教材として採用されたりテレビで放送されたりして馴染みが深い。途中でころんだら《三年きりしか生きられぬ》という言い伝えのある峠がある。ここでうっかり転んでしまったおじいさんが悲嘆にくれていると、水車屋のトルトリが《二度ころべば六年》云々と元気づける、というもの。とんちをきかせたストーリーには定評があるが、実はずっと前から疑問に思っていたことがある。それは、冒頭部分ではっきり《三年きり》と歌われているのに、どうして《二度ころべば六年》になるのか分からないということだ。この理屈はどこかが変で、割り切れない思いが残る。子どもたちは、これを疑問に思わないものなのだろうか。
 だから、冒頭作で以前同名の絵本として岩崎書店から出た「へらない稲たば」の方が、表題作よりずっと好感が持てる。互いに相手を思いやる兄弟愛を描いて感動的だ。とんちがきいているという点では、「かわうそとうさぎのちえ」や「ケドリのろば」の方を薦めたい。また、「よわむしごうけつ」は太平出版社から〈太平ようねん童話〉シリーズ中の一冊として刊行されたもの。フォア文庫版は太平出版社版の後半部分を思い切ってカットして、以前のものよりずっとすっきりしているように思う。後半部分が斎藤隆介ばりの自己犠牲を連想させて、かなり理屈っぽい感じがしていたからだ。
 中学年向き 新書判 150P 550円

【「本とこども」1996.8掲載】