山猫軒の料理メニュー 《新刊案内》



『ぼくたちの散歩』

工藤直子/著 長新太/絵 文溪堂

 お日さまが山の背中をなでてやる。地球が星たちに挨拶する、途方もなく大きな世界。かと思うと、弟の麦の穂が兄の麦の穂とせいくらべをする。きのこがふとんになってどんぐりを守ってやる、小さな世界。百万年も生きた石のおじさんが幼いとかげの坊やをだっこして、友だちになる、対照の妙。そして、総てのものに命があり、命をいつくしみあって暮らしている。こうした世界を作り出し、おおらかに描き出していることが工藤直子の人気の秘密なのだと思う。
 この本は、16の物語から成り立っている。こいぬのカンタが書いた日記、そして詩と散文の3つで1つの物語を構成。それぞれの物語は独立しているので、ざっと読み飛ばしたあと、お気に入りの物語を探すも良し、一つ一つの物語をじっくりと読み味わうも良し。いろいろな楽しみ方ができる。
 カンタの散歩の散歩を軸に、うみ・やま・のはらの仲間たちが次々に登場。とりたててストーリーらしいものはないが、これこそが作者のおなじみの手法である。長新太の絵もバランス良く、物語をひき立てている。
 ここで、私の最も気に入った物語を紹介しておこう。
 子犬のカンタが初めて海へ行った。ヤドカリをくんくんし、海のものすごい大きさに驚いた。これだけの話である。だが、少し見方を変えると、ヤドカリが引っ越しを済ませて安心したとたん、モノスゴイやつがおおいかぶさってくる。それで、「あの、モノスゴイやつは、なんだったのだろうなあ」と思う。たったこれだけのことであるが、私はこの物語の発想にひどく感動した。私の言う対照の妙の意味がおわかりいただるだろう。
 中学年向き A5 184P 本体1359円

【「本とこども」1998.1掲載】