山猫軒の料理メニュー 《新刊案内》



『ティナとおおきなくま』

ウテ・クラウス/作・絵 青木久子/訳 徳間書店

 子どもが本を読まなくなった。そのため、挿し絵の数が多くなり、画風も漫画風のものが幅をきかせるようになってきているように思う。そうした状況の中で、子どもにおもねるのではない、本格的な絵本に出会った。
 ティナは北国の小さな村に住んでいる女の子。村のみんなは森に住んでいるというおおきなクマを退治しに出かける相談をする。はじめ、ティナは小さすぎるからと言われるが、一生懸命努力する。ボクシングに励み、弓の練習をして、やっと連れていってもらえることになった。ところが、ティナは森の中で道に迷い、おおきなクマに出くわしてしまう。
 ストーリー自体は単純と言うべきだが、この本の真価は、絵にあると言えるのではないか。
 ティナたち一行が森に着く。その直後から、雪が降り始め、風景は一変する。雪に覆いつくされた森の風景が限りなく美しい。それまでの場面とうってかわって、白を基調にした抑制された色づかい。雪の上に点々と印された足跡。雪明かりの中にくっきりと浮かび上がった木々やクマの影。こうした道具だてが、読者を物語の世界にいざなっていく。
 そして、小さな女の子が森の中でおおきなクマにでくわす恐怖の一瞬。しかし、女の子がクマと目をあわせたとき、恐怖は親しみの気持ちに変わる。山場の一瞬にむけて、計算しつくされた画面構成が心憎い。
 また、それぞれの場面の絵をよく見ていくと、一種の隠し絵・だまし絵になっていることがわかる。思わぬところに隠されているクマの姿を探していくのも、この絵本の一つの楽しみ方だろう。
 低・中学年向き A4変型 32P 本体1400円

【「本とこども」1998.2掲載】