山猫軒の料理メニュー 《新刊案内》



『夜にくちぶえふいたなら』

たかどのほうこ/さく 長野ヒデ子/え 旺文社

 子どもの頃、「夜に口笛を吹くとヘビが出る」と聞いた記憶があるが、別の人によれば「夜に口笛を吹くとドロボーが出る」と聞いたという。そして、この本で出るのは、〈ヘビ〉ではなく〈ドロボー〉の方である。
 普通ならこんなふうにタネあかしをしてしまうと、その本の面白さは半減…ということになりかねない。だが、この本の表紙を一目見るだけで〈泥棒〉とわかってしまうのだから、お許しをいただこう。なにしろ、表紙絵のネコはドロボーのステロタイプそのものだ。いまどき珍しい唐草模様の大きなふろしきを背負い、黒い足跡を点々とつけている。だいいち、顔からしていかにもあやしく泥棒らしいふんいきがあるではないか。このネコはネコマサという名のドロボーネコなのだ。昔から「ウソつきはドロボーの始まり」というけれど、ネコマサはその両方を兼ねているのだから始末が悪い。でも、ドロボー仕事を終えたあとお詫びの手紙を書いているし、六ぴきの子ネコを養うためにドロボーしているのだから、根っからのワルネコというわけではないようだ。
 ストーリーは極めて単純だが、面白い。明日は遠足という日の夜、ミツオとノンコの兄妹の前にネコマサがあらわれる。兄妹はネコマサのウソにみごとにだまされて同情。ひとばん泊めてやるが、翌朝目を覚ますと大事な遠足のお菓子がそっくりなくなっている。ミツオが夜に口笛をふいたからドロボーネコを呼び寄せてしまったのだというオチになっている。こうしたストーリーも面白いが、絵もすばらしい。きちんと正座をしてドロボーではないと言い訳する仕草や、そらなみだを流してウソの身の上話をしているようすなどが、ユーモラスに描かれている。絵を見ただけで思わず笑ってしまう。
 低・中学年向き B5変型 46頁 本体1238円

【「本とこども」1998.4掲載】