山猫軒の料理メニュー 《新刊案内》



『ぼくにはしっぽがあったらしい』

なかがわ ちひろ/作・絵 理論社

 これまで絶対に体験したはずのない感覚を、なぜか、実際に体験したことのように感じることがある。ひょっとすると、この感覚は個人のレベルの問題ではなくて、種としての人間がたどってきた進化の歴史の記憶なのではないか。つまり、種の記憶なのではないか。これがこの本のメインテーマである。
 タイトルにある「ぼくにはしっぽがあった」ということは、誰もがビコツの存在を実感し、知識としても知ってはいる。こんなことは、ふだん、あまり真剣に考えることではないが、「ぼく」は「うろこだってあった」「しょっかくもあった」「超音波がきこえる」云々と、疑問をどんどんエスカレートさせていく。このように書いていくと、難しそうな内容だと思われてしまう。けれども、文句なしに面白くナンセンスであることは受けあっても良い。おとなも子どもも、難しいことなどすっかり忘れ、笑いころげているうちに読み終えてしまう。そして、物語の結末があまりにバカバカしくてあっけにとられるだろう。解放感のある終わり方である。
 また、文と絵が一体となり、ほどよくバランスのとれた構成になっている。各ページおおむね50字以内という文字の情報だけでは、これだけ多彩な内容を盛り込むことは不可能であったろう。例えば、この本にはもう一つのテーマが織り込まれている。それは、この本の読者の年齢の子どもにそろそろ芽生えだす性への関心ということである。文の方でもこのテーマに触れていないわけではないが、絵の方がはるかに雄弁だ。各ページの絵をよく見ていくと、このテーマについて描かれている箇所をあちこちに発見できる。もうひとつ別のテーマを読み取るのも、この本の楽しみ方であろう。
 中学年むき A5 62P 1000円

【「本とこども」1998.6掲載】