山猫軒の料理メニュー 《新刊案内》



『ぼくの大イワナ』

最上一平/作 文研出版

 ストーリは単純だ。釣り好きの男の子が子が公園で雨宿りをしたとき、ホームレスのおじさんと知合う。しかし、地域のおとなたちはホームレスのおじさんを嫌悪し、役所と警察を使っておじさんを追い出してしまったというものである。
 おじさんは、むかし、50センチ以上もある大イワナを釣ったことがあると言う。そして、おじさんは橋の上から川を見て、アユのいることを見つけることができる。死んだ直道のじいちゃんは、名のとおったヤマメ釣の名人だった。そのじいちゃんからの伝授だから、直道の釣りの腕前はそんじょそこらのおとなにはまけていない。だから、偏見なくおじさんの人となりを見抜くことができるので、心がかよいあったのである。直道は、おじさんが、どこか死んだじいちゃんに似ていると思った。
 ホームレスのおじさんはなかなかのインテリで、誰かが捨てたパール・バックの『大地』を愛読。これは、おじさんの唯一の財産なのだが、第二巻が欠けていた。直道は古本屋で第二巻を入手し、おじさんにプレゼントしようとする。だが、おじさんが公園から追い出されてしまったので、ついに実現できなかった。
 おじさんが公園から追い出されるとき、直道は「何か悪いことをしたんですか」と聞く。おとなたちの答えは、「悪いことなんかされちゃいけないから、でていってもらう」「きたならしい」というものであった。そんなおとなたちの言い分に、直道は「おじさんは何も悪くないぞ」と抗議する。しかし、その直道でさえ、おじさんが残飯をあさっているのを見たとき、思わず嫌悪感を覚えてしまったのではなかったか。この作品が問いかけるものは、通り一遍でなく重い。
 中学年むき A5 120P 1200円

【「本とこども」1998.9掲載】