山猫軒の料理メニュー 《新刊案内》



『トチノキ村の雑貨屋さん』

茂市久美子/作 あすなろ書房

 この頃は、昔ながらの雑貨屋を見かけなくなった。どんな山奥の村でも、新しく出店したり、古くからの雑貨屋から衣がえしたコンビニが目につく。確かに、コンビニは夜中でも開いているし、何でもあって便利である。カッパがキュウリにつける味噌を買いにきても、品切れだったということはないだろう。しかし、大手のフランチャイズ店のマニュアルには、お客がカッパだった時の対応までは書かれていまい。雑貨屋は商品だけを売るだけではなく、地域のコミュニティーセンターでもあった。
 トチノキ村のマルハナ商店は、トチノキ山のふもとの雑貨屋さんである。表紙の絵は二俣英五郎の筆になるが、ここには物語のすべてが凝縮されている。店をきりもりしているのは、花田サクラさん。このおばあさんを中心に、トチノキの精・カッパ・ウサギ・キツネ・タヌキ・テングが描かれている。物語は早春の芽ぶきの季節に始まり、冬の大雪の季節に終わる。この一年の間に、不思議な山の仲間たちが、次々とおばあさんの前に現われては去っていくというものである。
 全部で6話の短編連作集をつなぐものは、トチノキである。トチノキの花には蜜が多いので、ミツバチが集まる。トチノキの精は古いミツバチの巣をもらって蜜ロウソクを作り、山の仲間に分け与える。冬の寒い晩にそれをともすと、やさしいあかりにつつまれて、ほっこりとあたたかくなるという。また、トチノキの葉はテングの羽うちわのような形をしている。トチノキ山のテングは、代々トチノキの葉をうちわにする習わしになっているという。テングはトチの実からトチモチをつくり、山の仲間の忘年会をひらく。マルハナ商店も、こうした山の仲間のつながりに、なくてはならない存在なのである。
 中学年むき A5 111P 1200円

【「本とこども」1998.12掲載】