山猫軒の料理メニュー 《新刊案内》



『ムジナ探偵局』

富安陽子作 おかべ・りか画 童心社

 全体として三つの作品からなる連作短編集。肩ひじ張らずに楽しめる怪奇探偵ものである。
古本屋の狢堂(むじなどう)には、もう一つの看板がかかっている。ムジナ探偵局という看板だ。以前は普通の古本屋だったが、先代の主人が亡くなり息子の代になってから、こんな看板を出すようになったのだという。古本屋の主人がムジナ探偵でホームズ役、常連客の源太少年がワトソン役を務めるという趣向になっている。
 さて、探偵局に舞い込んでくる依頼は、なんとも奇怪な事件ばかりである。 たとえば、若い女の依頼人があらわれて、毎晩同じ夢を見るという。そして、仕事からの帰り道、夢の中とそっくり同じ家があるのを見つけた。奥の座敷には夢でみたのと同じ白木の箱もある。だから、どうしてもその箱の中身を知りたいというものである。作品中に種明かしはないが、依頼人の名前からしてすでに怪しいのだ。
 ところで、探偵は古本屋の副業だといっても、ムジナ探偵にはけっこうホームズ並みの推理力がある。例えば、女の正体をたちどころに見抜いて、あなどりがたい実力を見せるというように。しかし、それにしても、ムジナ探偵は、どうしてヘビの弱点とか、妖怪の妖術をとく方法だとか、変なことばかり知っているのだろうか?
 源太は「本物のムジナが探偵に化けている?」という疑問さえ感じるが、私の推理するところでは、まさかそんなことはあるまい。だって、ムジナ探偵は依頼人の正体を確かめるために、わざとタバコをすった。そして、化かされたときはまず落ちついて、タバコを一服しろと言っている。もし、自分がムジナだったら、そんなことできないはずだ。それじゃいったい??  中学年むき A5 192P 1200円

【「本とこども」1999.4掲載】