山猫軒の料理メニュー 《新刊案内》



『あいつ探し』

中尾三十里/作 こばやし・たかこ/絵 NTT出版

 転校生をめぐる謎ときをしていく展開の中に、いじめやおとうさんのリストラという状況も織り込まれている。現代の子どもを取り巻く状況が凝縮されている。確かに重いテーマを扱ってはいるのだが、さわやかな読後感を残す、ほのかなラブロマンスに仕上がっている。会話だけでなく、本文の文体にも、いかにも現代の子どもらしさを感じさせられる。  転校生の月森は、めちゃくちゃ変わってるから宇宙人と呼ばれている。髪の毛は男の子と見間違うほどのベリーショートヘアー。教室で誰かに話しかけられたら返事はするものの、会話は簡単にすませてしまう。絶対に友だちを作ろうとせず、ひとりで生きている。気に入らないことを言われたら、男の子にでも蹴りをいれるという気の強さである。
 謎は、そんな月森が、突然、同じクラスの男の子、長瀬の家に訪ねてきたことから始まる。月森はこれからいっしょに出かけてある男の人を尾行して欲しいと頼む。自分の顔は知られているから、長瀬に頼みたいというのだ。学校でほとんど口もきいたことのない月森からそんな依頼を受けた長瀬は、少しとまどうものの、ランチをおごってくれるというし、面白そうだからと引き受ける。初めは浮気の調査か何かだと思っていたが、どうも見当違いらしい。それじゃいったい?
 それにしても、長瀬と月森はこれからどんな関係になっていくのか。二人の女の子から好きだと告白された長瀬はどうするつもりかな? どっちの女の子にも興味あるみたいだし…。ちょっと気を持たせる結末も魅力の一つだろう。
 読者の興味をひくツボを心得たストーリー展開である。
 中・高学年むき A5 126P 1200円

【「本とこども」1999.5掲載】