山猫軒の料理メニュー 《新刊案内》



『シャーロット・ドイルの告白』

アヴィ/作 茅野美ど里/訳 偕成社

 シャーロットは13歳の女の子。アメリカの上流の家に生まれ、ヤングレディーとして振る舞うよう躾けられてきた。彼女は1832年の夏休みを利用して、イギリスのリバプールから大西洋を横断する帆船に単身で乗り込むことになる。ロンドンに赴任していた父の昇進に伴って、一足先に帰った家族の後を追っての渡航である。
 帆船は父の会社の持ち船だし、父の知り合いの一家もいっしょに乗船するから、何の心配もないはずだった。しかし、港に着いてみると、船長の名前を聞いただけで、ポーターは荷物運びを拒否するし、乗組員たちはしきりに別の船への乗り換えを奨める。同乗するはずの一家は遅れて出航に合わない。それでも仕方なく彼女は乗船し、スリルとサスペンスに満ちた大冒険が始まった。
船の中で彼女と同じ階級に属しているのは船長ただ一人。りっぱな上着、山高帽、ぴかぴかの黒いブーツ、きれいにひげをあたった顔、威厳のある物腰を備えた立派な紳士である。それにひきかえ、船乗りたちはむっつりとした表情、意気をそがれたような姿勢、不機嫌なだけで気骨の感じられない目つき。これほどお粗末な男たちは見たことがないぐらいだった。
 彼女がどちらを信用すべきかは明らかなようだが、ちょっと待った! 怪しげな船に13歳の女の子をただ一人で乗せ、そそくさと逃げるように帰ってしまったグラミッジさんも紳士と言われる階級の人物ではなかったか? 一方、そっとナイフをシャーロットに手渡し、護身用に隠し持っておくように忠告してくれたのは、船中で唯一の黒人である老いぼれ船員ではなかったか?
虚飾の紳士・淑女の世界に見切りをつけ、下層階級の人々の中に真実を求める少女の決意は感動的である。
 中学生むき A5 382P 1600円
【「本とこども」1999.6掲載】