山猫軒の料理メニュー 《新刊案内》



『ぶたの・ポテトはひとりぼっち?』

武鹿悦子/作 渡辺洋二/絵 大日本図書

 『ぶたの・ポテトはこわがりや』『ぶたの・ポテトのひみつのやくそく』に続く最新作。のはらの家に住むおなじみのぶたのポテトが登場する。今回は右どなりの黒ねこ・ニーニ、左どなりのひつじ・ネネ、おむかいの九官鳥・キューといった友だちが、みんな留守なので、ポテトはひとりぼっちになってしまったというわけだ。
 作者は童謡詩人として多くの業績のある人。この作は散文だが、いかにも童謡詩人らしい感覚が随所に見られる。たとえば、〈ワシワシ……と ないていた セミの 声〉というオノマトペ、雨雲が〈セミみたいに ぴっと おしっこ ひっかけた!〉という発想、〈ごろごろと 天の 大ねこが のどを ならすような〉雷の音という比喩などである。渡辺洋二の描くポテトの姿も、すっかり定着。今後、息の長いシリーズとして書きつがれていくような気がする。
 このシリーズ全体に共通するテーマは《友だち》ということ。今回も同様で、内容に即して言うなら、《この人、ぼくの だいじな ぶたの・トマトさん》ということになるだろう。ただ、これまでの作でポテトの前に現われたのは、「三匹の子ぶた」の話の中で悪者のおおかみをやっつけた”ほこりのご先祖”であったり、真夜中に空から落っこちてきてしまったサンタクロースという変わり種であった。今回はかわいらしい女の子のぶたの・トマトや、人みしりのかわうそ・クルリという、どちらかと言えば地味な存在が登場する。けれども、それだけに《友だち》というテーマをじっくり掘り下げていく仕上りになったといえよう。
 低・中学年向き 変型 60P 1200円

【「本とこども」1996.10掲載】