山猫軒の料理メニュー 《新刊案内》



『しょぽろタクシーのおきゃくさま』

小野寺悦子/作 中井絵津子/絵 大日本図書

 〈しょぽろさん〉はタクシーの女性運転手さん。抜群の運転技術を持っているので、いつ止まったとも走ったともわからないくらいだし、困っている人を見るとタダで乗せてしまう。お客は人間だけでなく、今夜も往診に行くかっぱの医者を乗せてくたびれはててしまった。
タクシーの運転手さんと言えば、『車のいろは空のいろ』(あまんきみこ)の〈松井さん〉をすぐに思い浮かべる。でも、タクシー代を払ってくれない不思議な客ばかり乗せて、松井さんの営業成績はどうなってるの? そんな疑問を感じるのは評者がひねくれているからかもしれないけれど、やっぱり現実は甘くない。それで、〈しょぽろさん〉は、とうとういまは流行のリストラをされてしまう。結局、手元に残ったのは、退職金がわりにもらったおんぼろタクシーだけという境遇になった。
 しかたなく、川岸のお客(かっぱや人魚)を専門に個人タクシーを始めるが、これが大当たり。お客から使い切れないほど大粒の真珠をもらうので、とうとう台所のサラダボールがいっぱいに。ところが、ある夜、かっぱ医者を乗せて走っていると、山奥で捻挫をして困っている人間の若者を見つけたので、同乗させようとした。しかし、かっぱが言うには、川岸専門のタクシーに人間を乗せると、タクシーはたちまちポンコツになり真珠はただの水になってしまうらしい。それでも困っている人を見捨てておけない性分なので、若者を乗せてやると…。
それにしても、このかっぱ医者は人間が同乗するのをいやがりながら、それでも若者の捻挫を放っておけず、秘薬をつけてやるばかりか、知ってか知らずか若者と〈しょぽろさん〉の縁結びの役まではたしてくれる。実に愛すべき魅力的なキャラクターに仕上げられている。
 中学年むき B5変 60P 1040円
【「本とこども」1999.10掲載】