山猫軒の料理メニュー 《新刊案内》



『魔女からの贈り物』

ジェニー・ニモ/作 佐藤見果夢/訳 評論社

 ある貧しい一家におこった不思議な物語。暖かでさわやかな読後感を感じさせるファンタジーである。
 テオ少年のかあさんは、猛吹雪の中で困っているおばあさんを家に泊めてあげる。一方、テオのとうさんは、悪天候が続く中、仕事に出かけたまま家に帰ってこない。かあさんは口にこそ出さないが、とうさんが雪の中で道に迷っているのではないかと心配でならないのだ。ようやく、嵐がおさまった日の朝、おばあさんは自分の家に帰る。そして、とうさんも無事に帰ってくることができた。
 この物語をテオの視点から書くとこうなる。嵐の夜、恐ろしい魔女が家の中に入り込んできた。魔女はテオがかわいがっている黒猫のフローラをさらいにきたに違いない。とうさんは帰ってこないし、かあさんはテオの言うことを信じてくれない。そして、とうとうフローラの行方がわからなくなった…。
 おばあさんの正体は物語の最後になっても明らかにならない。テオが見聞きした数々の不思議は気のせいなのか? 夢なのか? とうさんが無事帰り着くことができたのは、魔女がフローラを迎えに出してくれたからなのか? テオの手元に残された水晶のネックレスは、魔女の涙で出来たものなか?
 貧しいながらも平穏な家庭に、ふいに侵入者が現われる。やがて侵入者が立ち去るとともに、もとの安定を取り戻す。しかし、総てがそっくり元のままになったわけではない。テオが手に入れたものは水晶のネックレスだけでなく、人を思いやる愛の尊さであろう。
 要するに「風の又三郎」型の物語なのである。転校生が単なる少年なのか風の又三郎の化身であったのか?物語の最後になっても明らかにならない。国も違うし時代背景も違う二つのファンタジーが、共通する枠組みをもつことは面白い。
小学校中学年向き A4 102P 1300円

【「本とこども」2000.3掲載】