山猫軒の料理メニュー 《新刊案内》



『いちょうやしきの三郎猫』

成田雅子/作・絵 講談社

 飼い猫の三郎がいなくなったので、麻美という女の子が探しに出かけると、立派ないちょうのある屋敷に住んでいた。清次郎という青年と一緒にこの屋敷で暮らしていて、この屋敷を清次郎のコーヒー屋と三郎のギャラリーにするのが、夢なのだという。麻美は知らなかったが、三郎には絵を描く才能があったのだ。麻美は三郎をむりやり連れて帰ろうとするが、「あなたは、さびしくなるとぼくをよんで、あきればぽい、だ。思いどおりにぼくがうごかないと、ごはんをとりあげる。ぼくは、麻美ちゃんのおもちゃじゃありません。」と言われてしまう。
 はじめ、麻美は「なまいき。ただの三郎猫のくせに。」と思って、三郎の自立なんてまるで眼中にない。そこで、〈三郎はあたしの猫なんです〉という論理を展開するが、清次郎から〈三郎くんは、だれのものでもないですよ〉と反論される。そして、三郎が描いた絵を見ているうちに、麻美は〈三郎のほんとうのせかい〉の存在を知った。毎日いっしょに暮らしながら、ほんとうは三郎のことなんて何も知らなかったことがわかったので、麻美は三郎が立派な絵描きになることを心から願う。けれども、別れ間際になると胸がいっぱいになってしまう。もちろん三郎だって同じこと。立派に自立した三郎だが、麻美を引きよせるとほぺったをすり寄せる。
 ようするに、これは猫の自立の物語であり、ストーリー展開の意外性や女の子と猫の間の愛情の描き方が見事。新人のみずみずしい感覚があふれる絵本である。ただ、ラストページに描かれた三郎からきたはがきは、活字で文面をかくのでなく、やはり手書き文字で表現した方が絵本の雰囲気にマッチしたのではないか。
 低・中学年向き 変型 32P 1200円

【「本とこども」1996.11掲載】