山猫軒の料理メニュー 《新刊案内》



『アイスクリームでかんぱい』

いとうひろし/さく ほるぷ出版

 夢というものは児童文学の題材として非常に好まれるもののひとつである。物語が終わってみると全ては夢だったというのは、あまりにも単純すぎてばからしい。かといって、胡蝶の夢の故事ではないが、夢と現実が少し入り組んで、収拾がつかないのも困りものだ。しかし、宮沢賢治の「山男の四月」のようなものもある。目眩を覚えるほど、あえて収拾をつけない物語の面白さというものもあるのでは…と思うのだ。
 ここに紹介する本は、そんなことを考えさせてくれる。
 ぼくがアイスクリームを買いに行くと、どこの店にも見あたらない。アイスクリーム専門店ならと行ってみると、ライオンがアイスクリームの入れ物に顔をつっこんで食べていた。ライオンが言うには、ひとの夢の中を次々にすりぬけてアイスクリーム屋を独り占めする夢にたどりついたらしい。だとしたら、このぼくはライオンの言うように、居眠りをして夢を見ているうち、失礼にもライオンの夢に迷い込んでしまったのか。もし、眠っているほうのぼくがライオンに見つかって食べられてしまったら、夢の中のほうのぼくはどうなるのだろう。けれども、ライオンと賭をしてぼくの家で眠っているほうのぼくを探しに行っても、ぼくはいなかった。だとしたら、起きているぼくがアフリカで眠っているライオンの夢の中に迷い込んだのか。もし、今度、ぼくがライオンの夢にもぐりこんだら、賭に勝ったのだからライオンにアイスクリームをおなかいっぱい食べさせて貰えるのだろうか。考えるだけでも、頭がこんがらがってしまう。
 ところで、この本のカバーを取りのけてみると、実にひとを食った装幀が現われる。もし、経費節減を兼ねて意図的にデザインしたのなら、たいしたものだと思う。
小中学年向き A5 126P 1300円

【「本とこども」1997.1掲載】