山猫軒の料理メニュー 《新刊案内》



『ぼくのわがまま電池』

大塚菜生/作 大和田美鈴/絵 岩崎書店

 ぼくは〈充電式電池〉が欲しくてしかたがない。やっとお母さんからせしめたお金を持って新装オープンセール中の電器屋に行ってみる。店には変な感じのおじさんがいて、実験中の電池のモニターになって欲しいと言う。3センチにも満たない小さな電池だが、これが優れもの。自分で考える力を持ち、いろんな形に自分を合わせることもできる上に、充電なんかしなくてもいいらしい。ぼくはいんちきくさいとは思ったけれど、家に帰って試してみる。すると、奇想天外な事件が次々に発生。実は電器屋さんは未来で電池の研究をしている人なのだが、この電池もやっぱり失敗作の一つのようだ。
 主人公が "チビ" と呼ばれる度にひどく傷つくということを "じまんじゃないけど、ぼくの場合、〈まえならえ〉は手をこしにつけること。ようち園のときからさ" と表現。当人でなければわからない感覚が光っている。また、ナンセンスなストーリー展開の中に、コンプレックスを持つ子どもに勇気を与える点が好ましく、非凡な才能の新人が出現した。福島正実記念SF童話賞受賞。
 ただ、電器屋さんはなぜ2099年の未来から現代にやってきたのだろう? 彼が言うには研究費がかさむので過去の世界で電器屋を開いてひと儲けしようと思ったらしい。しかし、現代で電器屋を開くことによって、どうしてひと儲けができるのか、そこのところがわからない。この本の帯によれば、"奇想天外なナンセンス童話" だという。たしかに一般むけの作品にも "ハチャハチャ" と呼ばれるナンセンスSFの流れがあるし、子どもむけにそうしたものがあっても良いだろう。だが、未来人の出現はこの物語のSF的な展開の基幹となるはず。"SF" を名乗る限り、こういうところはきちんとして欲しい。
 中学年向き 変型 79P 本体1068円

【「本とこども」1997.5掲載】