山猫軒の料理メニュー 《新刊案内》



『ミクロからの脱出』

森下研/作 山下勇三/絵 小峰書店

 小さな船を家にして悠々と暮らしている老船長が、若い頃の冒険談を語る。昔、彼がサルベージ船の船長をしていたとき、沈没したタンカーの探索に従事。二人の部下を引き連れ、本船から小型の潜水艇に乗り換えて海中に入る。そこで、背中にモリがささって死んだシャチを発見する。すると、不思議な声が聞こえてきて、船長は自分たちがプランクトンに変身してしまっていることに気がついた。
 プランクトンは小イワシに食べられ、小イワシはカツオに食べられ、カツオはカジキに食べられる。そんな食物連鎖を、船長たちは文字どおり身をもって体験することになる。そして、ラストでは、老船長が顔中に髭をたくわえている理由が明らかにされるという仕掛けになっている。海には不思議がいっぱいというわけだ。
 すっかりお馴染みになった〈ひげじいさんが語る〉シリーズの最新作。まるでインディージョーンズのような大冒険ばなしが、老船長のホラばなしなのか、それとも実際に体験したはなしなのか、それは誰にもわからない。なにしろ、船長にとっては、自分の小さなボロ船もマメ豪華船なのだから。しかし、子どもたちにとってみれば、老人の思い出ばなしなどというものは、どれもこれもみなそういうものなのかもしれない。
 夏休み中をねらってか、新刊書には怪談ばなしがやたらに目につくが、本当に恐い話にはめったにお目にかからない。そんな中で、老船長が冒頭で語る戦争中のエピソードにはおもわずゾッとする。しかし、それよりも、豊かな海を埋め立てたり、魚を乱獲する人間の行いの方がもっと恐い。老船長の若い頃の冒険にハラハラしながら、そんなことを考えさせてくれる本である。
 中学年向き A5 127P 本体1200円

【「本とこども」1997.8掲載】