山猫軒の料理メニュー 《新刊案内》



『石のねずみ ストーンマウス』

ジェニー・ニモ/作 ヘレン・グレイグ/絵 安藤紀子/訳 偕成社

 ストーン・マウスは、マリアおばさんが掘り起こしてくれるまでは、ただの石ころだった。が、今ではものを考え、人間や動物たちと会話することだってできるし、人の心を癒すことができる。と、ここまで書くと、すっかり物語のタネあかしをしてしまった。もし、私が心理学者なら、はやりの〈子どもの本と心の癒し〉というテーマで、こと細かに解説したくなるだろう。けれども、できればそんな腑分けなどせず、そっとこのまままにして欲しい。それほど、この物語は愛しく面白いのだ。
 まず、扉絵をのページを開く。そこには海辺の崖に面して建てられた古い家が描かれている。これからおこる物語に期待ができそうだ。そして、物語はマリアおばさんが旅行に出かけて、海辺の家を留守にすることから始まる。おばさんは2匹のネコの面倒をみてもらうため、親戚に留守番を頼んだ。親戚というのは、両親と兄のテッド・妹のエリーの4人家族。両親は夏休みの避暑を兼ねて、留守番を引き受けている。
 家族が家に着いたその日から、ストーン・マウスはさっそくエリーと心を通わすことができる。だが、テッドは両親の無理解からひどく心が傷ついていて、やり場のない怒りをストーン・マウスに向ける。マウスを海に投げ込んだり、深い穴の中に埋めたりするのだが、結局、冒頭にタネあかしをしたとおり、テッドの心が癒される。
 それにしても、この物語に登場するおとなたち(両親)は、子どもの心がわかっていない。ストーン・マウスの行方を心配するエリーや、深く傷ついているテッドのことなど、まるで理解できない。そんなふうだから、ストーン・マウスと話をしたり、心を通わすこともできないのだろう。この本を読んだおとなたち、反省しなさい。
 中学年向き A5 109P 本体1000円

【「本とこども」1997.9掲載】