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雑誌の附録に照明をあてる

 中村圭子・堀江あき子編『少年少女ふろくコレクション』(九六年七月 藝神出版社 二五〇〇円)は、これまであまり顧みられることのなかった雑誌の附録に照明をあてている。編者は弥生美術館の学芸員であり、この書は同館の企画展の成果をもとに編集されたもの。雑誌の附録の起源から説きおこし、附録作りに携わる職人の名人芸に支えられた黄金期、戦中・戦後の混乱期を経て、高度経済成長期にいたるまでの附録の数々を収録する。もともと児童雑誌は散逸しがちな資料であるが、附録というものはとりわけ使い捨てにされる運命にある。その中で、「少年倶楽部」の数ある附録の中でも評判の高かった〈軍艦三笠の大模型〉や〈エンパイア・ビルディング〉などはかなりの逸品だと思うし、「少年少女譚海」の〈超弩級大型戦車〉も同様である。いまや稀覯資料となった附録を一同に集め、全ての図版をカラーで掲載した本書は、極めて資料性が高いと言えよう。美術館と関係者の努力に敬意を表したい。
 ただ、戦中の「少年倶楽部」の解説中に《荒鷲》を飛行機の機種のこと(実際には日本の飛行兵のこと)とする記述や、探偵ものの解説中に少年雑誌へ少年探偵が登場するのは大正時代から(実際には明治時代から)とする記述などを散見する。単純な誤植の類いはさておくとしても、研究不足に由来するこうした誤りが惜しまれる。
 また、明治の絵雑誌にあるしかけ絵本の手法を取入れた頁や、ヨーロッパのしかけ絵本・紙おもちゃに附録の原型を求めて記述が進められるので、必然的に紙製の附録中心の構成になっている。確かに、流通経路の制約もあって、附録の素材といえば紙が主流で、せいぜい木材・ゴム・ブリキまでという時代が長く続いたことは間違いない。しかし、六〇年代以降はビニールやプラスチックなど新しい素材を用いた附録が急速に増加。現在ではICや形状記憶合金などが多用されるようになっているが、こうした素材の変化の過程についてはあまり触れられていない。
 この点については、昨年に刊行されているBrainBusters編『「科学」のふろく』(太田出版)に詳しい。この書では学研の学年別学習雑誌「○年の科学」の附録が取りあげられている。また、『「科学」のふろく』は当時の世相・流行や子ども文化の状況との関連にまで踏み込んでいる事に特徴があり、こういう視点についても『少年少女ふろくコレクション』ではやや希薄であるように思う。
 なお、関連する書として、奥成達の『駄菓子屋図鑑』(飛鳥新社)がやはり昨年に刊行されているので、併せて読んでみるといっそう理解が深まるだろう。
 ところで、弥生美術館と同じ敷地内には竹久夢二美術館が併設されている。これにちなんで、最後に夢二に関連する書を取りあげておきたい。金森敦子の『お葉というモデルがいた』(九六年五月 晶文社 二三〇〇円)は研究書ではないが、丹念な調査に基づくノンフィクション。お葉とは夢二の絵に頻繁に登場するちょっと物憂げではかなげな細身の美人のこと、といえばおわかりになるだろうか。これまでの夢二サイドに立った研究では、彼女は好ましからざる人物のように描かれてきたが、この女性の奔放な生き方に新しい視点からの再評価を試みている。

【「日本児童文学」1996.10掲載】